労働時間 増やしたい?減らしたい?

企業にとって、適切な労働時間の設定は簡単なテーマではありません。人材確保や生産性、健康確保とのバランスを図る必要があるうえ、従業員の意向も一様ではないためです。ワークライフバランスを重視する人もいれば、もっと働いて稼ぎたいと考える人もいます。こうした意向の違いは、企業の経営にも直結します。本稿では、厚生労働省が3月に公表した「働き方改革関連法施行後5年の総点検」の結果から、労働時間に関する労働者や企業の意識をお伝えします。

※出典:厚生労働省「働き方改革関連法施行後5年の総点検」の調査結果を公表します

1.「減らしたい」が30%

この調査は、厚生労働省が昨年10~12月、働き方改革関連法施行後5年の状況を把握するため、労働者と企業を対象に行ったものです。労働者への調査には、様々な業種、企業規模の3,000人が回答。「労働時間をどのようにしたいか」という質問では、次のような結果となりました。

回答 割合
このままでよい 59.5%
減らしたい・やや減らしたい 30.0%
やや増やしたい・増やしたい 10.5%

全体の3割は、現在の労働時間を長いと感じているという結果になりました。「減らしたい・やや減らしたい」と答えた人と、「やや増やしたい・増やしたい」という人に理由を尋ねたところ、次のような結果(複数回答)が出ました。

労働時間を減らしたい理由 割合
自分の時間を持ちたいから 66.7%
自身の健康を害しないため 39.6%
長時間労働をしても収入が割に合わないから 30.0%
帰りやすい風土をつくりたいから 20.9%
家事、育児等の時間を持ちたいから 18.4%
今の仕事が好きではないから 12.2%
生産性を上げたいから 11.1%
副業・兼業をしたいから 7.6%
その他 3.0%
労働時間を増やしたい理由 割合
たくさん稼ぎたいから(「所定労働時間以外の労働分の収入(残業代)がないと家計が厳しいから」を除く) 41.6%
自分のペースで仕事をしたいから 19.7%
所定労働時間以外の労働分の収入(残業代)がないと家計が厳しいから 15.6%
その他 11.7%
仕事の完成度や業績をより高めたいから 10.2%
会社や社会に貢献したいから 9.8%
業務を通じて知識や経験・スキル・技術を高めたいから 7.0%
労働時間が長い方が上司や周囲に評価されるから 4.1%

※厚生労働省「働き方改革関連法施行後5年の総点検」より

労働時間を減らしたい理由では、「自分の時間を持ちたいから」という人が最も多く、ワークライフバランスを重視する傾向がうかがえます。

一方、労働時間を増やしたい理由は、「たくさん稼ぎたいから」が最も多く、「所定労働時間以外の労働分の収入(残業代)がないと家計が厳しいから」という切実な理由も3番目に多いという結果となっています。

2.「増やしたい」企業16.2%

一方、企業(327社)への調査では、次のような結果となりました。

回答 社数 割合
現状のままがいい 201社 61.5%
減らしたい 73社 22.3%
増やしたい 53社 16.2%

「増やしたい」と考える割合が、労働者の回答(10.5%)よりも高いのが特徴です。

「増やしたい」理由としては、業務の性質の観点から(29社)、受注量を増やす観点から(9社)、労働者の希望の観点から(9社)、人手不足の観点から(7社)、仕事の完成度や技術を上げる観点から(5社)などがあがりました。具体的には、「工期が厳しく、残業で対応しないといけない現場を年数件ほど断っている」(建設業)、「30~40代の若い運転手から『子育て等にお金がかかり労働時間を増やしたい』とのニーズがある。運転手は『他の会社に行ったほうが(長い時間働くことができて)稼げる』という情報があれば、すぐに他の会社に移ってしまうため、囲い込みのためにも増やしたい」(運輸業、郵便業)といった声が上がりました。

一方、「減らしたい」理由は、人材確保・定着の観点から(22社)、労働者の健康確保・ワークライフバランスの観点から(18社)、人件費抑制の観点から(9社)などとなっています。

3.さいごに

今回の調査結果から分かるのは、労働時間に対する考え方が、労働者の間でも企業の間でも一様ではないということです。現状維持を望む声が多い一方で、労働時間を減らしたい人も、増やしたい人も一定数存在しています。

そのため、労働時間を考えるに当たっては、直ちに制度見直しを検討するのではなく、現状の運用の中で、どのようなニーズがあり、どこに無理や偏りが生じているのかを把握することが重要です。全員にとって最適な対応は難しくても、自社として優先的に向き合うべき課題を整理することはできます。

とくに中小企業では、人手不足や受注対応の必要性がある一方で、健康確保や人材定着への配慮も欠かせません。実労働時間の状況や、業務量の偏りを確認し、現行制度の範囲内で対応できることを検討したうえで、なお課題が残る場合に制度面の見直しを考えることが現実的です。

労働時間の問題は、単なる長短の議論ではなく、人材確保、定着、生産性、健康管理に関わる経営課題です。自社の現状を客観的に整理し、運用と制度の両面から、実態に合った対応を進めていくことが大切です。

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