悩ましいハラスメントの境界線
悩ましいハラスメントの境界線
業務時間外に LINE で連絡する、肩を叩いて励ますなどの行為は、職場のハラスメントに当たるのでしょうか。ハラスメントになるかどうかの境界線について、悩む企業も多いと思います。本稿では、最新の調査結果を参考に、ハラスメントの代表格であるパワーハラスメント(パワハラ)とセクシュアルハラスメント(セクハラ)について、基本的な考え方やハラスメント回避のヒントをお伝えします。
1.グレーゾーン行為に注意
先端機器によるストレスの可視化に取り組むMENTAGRAPH株式会社(本社:東京都中央区)は今年9月、「ハラスメントの基準」に関する調査結果を公表しました。
調査は昨年12月、全国の22~65歳の管理職と非管理職各900人、計1,800人を対象に実施。「ハラスメントの基準に関して当てはまるものを選択してください」という質問では、次のような回答が出ました。
| 行為 | 割合 | 行為 | 割合 |
|---|---|---|---|
| 業務時間外のLINEでの連絡 | 28.6% | 飲み会への参加要請 | 22.5% |
| 肩を叩く | 26.6% | 休暇取得の理由を尋ねる | 19.3% |
| 「若いから体力がある」という発言 | 25.4% | 残業や休日出勤が当たり前 | 15.4% |
| 下の名前での呼び捨て | 25.4% | 個人の外見に関するコメント | 15.2% |
| 髪型や服装への指摘 | 23.3% | 業務上の指導での怒号 | 15.0% |
※回答割合は「当てはまる」「やや当てはまる」の合計です。
※MENTAGRAPH株式会社「ハラスメントの基準」に関する調査結果より
同社では、「身体的接触や属性・外見への言及、私的時間への侵入といった“グレーになりやすい行為”」が並んでいると指摘しています。
また「肩を叩く」「『若いから体力がある』という発言」「髪型・服装への指摘」「業務時間外のLINEでの連絡」「下の名前での呼び捨て」については、非管理職のほうが管理職よりも「ハラスメントに当てはまる」と答えた割合が7.3~3.9ポイントも高く、大きなギャップがありました。
同社は「現場(非管理職)はリスクとして敏感に捉える一方、管理職は『コミュニケーションの一形態』『指導の一環』と捉えがちで線引きが甘くなりやすい可能性が示唆されています」と注意を促しています。
2.ハラスメントの基準
これらの行為について従業員が「ハラスメントだ」と被害を訴えた場合に、会社は調査をして、ハラスメントに当たるかどうかの判断をしなくてはなりません。
厚生労働省が示している判断の基準について、改めて確認しておきましょう。
まずパワハラは、
①優越的な関係を背景とした言動で、
②業務上必要かつ相当な範囲を超え、
③労働者の就業環境が害されるもので、
3つの要素をすべて満たすケースです。例えば、次のような行為がパワハラになります。
| 行為類型 | 具体例 |
|---|---|
| 1. 身体的な攻撃 | 暴行・傷害 |
| 2. 精神的な攻撃 | 脅迫・名誉棄損・侮辱・ひどい暴言 |
| 3. 人間関係からの切り離し | 隔離・仲間外し・無視 |
| 4. 過大な要求 | 業務上明らかに不要なことや遂行不可能なことの強制、仕事の妨害 |
| 5. 過小な要求 | 業務上の合理性がなく、能力や経験とかけ離れた程度の低い仕事を命じることや仕事を与えないこと |
| 6. 個の侵害 | 私的なことに過度に立ち入ること |
– 参照 ※厚生労働省サイト「あかるい職場応援団
例えば、「ハラスメントの基準」に関する調査結果のうち、「休暇取得の理由を尋ねる」は、過度に繰り返し行うと「個の侵害」に当たる可能性があります。一方、客観的にみて、業務上必要かつ相当な範囲で行われる適正な業務指示や指導については、パワハラには当たりません。

セクハラは、「労働者の意に反する性的な言動により、就業環境を害される、または不利益な取扱いを受けること」をいいます。性的な関係の強要はもちろん、性的な冗談やからかい、食事やデートへの執拗な誘いなども含まれます。セクハラかどうかの判断にあたっては、個人の受け止め方の違いもあるので、受け手の主観を重視しつつも一定の客観性が必要です。
一般的には、「平均的な労働者の感じ方」を基準として、ケースバイケースで判断します。また、性的関係を要求され、拒んだら解雇されたといったケースを「対価型セクハラ」、上司が女性社員の腰、胸などに度々触ったため、女性社員が苦痛を感じ就業意欲が低下したといったケースを「環境型セクハラ」といいます。先の調査結果のうち、「肩を叩く」「髪型や服装への指摘」などは、その性質によってはセクハラに該当しかねない行為と言えます。
顧客や取引先からのハラスメント(カスハラ)も増加しています。
企業が取るべき対策について、詳しくはこちらの記事をご覧ください。
3.さいごに
ハラスメントは、従業員の尊厳を傷つけるだけでなく、職場の生産性低下や人材流出につながる重大な職場課題です。さらに、企業として十分な調査や再発防止措置を講じなかった場合には、法的責任を問われる可能性もあります。
ハラスメントに関する紛争は、労働局のあっせん・調停を経て、民事訴訟に発展するケースも少なくありません。その場合、使用者責任や債務不履行責任が問われ、損害賠償請求や、社会的な信用の低下といった影響が生じるリスクもあります。お困りの際にはお早めに弊所にご相談ください。
また、厚生労働省の特設サイト「あかるい職場応援団」も大変参考になるので、ぜひご覧いただくことをお勧めします。
Q & A
記事の中でちょっと気になる豆知識をご案内。
「悩ましいハラスメントの境界線」に関連する豆知識をお伝えします。
社内の実態を把握するため、まずは職場のハラスメントに関するアンケート調査を実施したいと考えています。実施にあたっての注意点はありますか。
厚生労働省の特設サイト「あかるい職場応援団」では、アンケートを実施する際の注意点として次の点を挙げています。
| No. | 注意点 |
|---|---|
| ① | アンケート調査の目的を明確にし、安心して率直な回答を得られるように工夫する。 |
| ② | 可能な限り多くの従業員、派遣社員やパートタイム従業員なども対象として実施する。 |
| ③ | ハラスメントについての知識が乏しい場合が想定されるので、選択式の設問を多くし回答しやすい内容とする。 |
| ④ | 継続して実施して、周知・啓発や教育・研修の効果を把握し、今後の取組み課題を分析する。 |
| ⑤ | 無記名とする、回収方法などで個人が特定できないようにする。 |
ご不明点やお困りごとがございましたら、お気軽に社労士法人Aokiまでお問い合わせください。
