雇用:多様な正社員制度

正社員とは一般的に、無期雇用、フルタイム勤務、残業、転勤ありという働き方を指します。しかし近年、こうした正社員とは異なる働き方をする「多様な正社員」が広がりつつあります。この制度は、優秀な人材の確保・定着にも有効と言われています。本稿では、「多様な正社員」の種類や、企業にとってのメリットなどを説明します。

1. 勤務地、職務、勤務時間を限定

「多様な正社員」は一般的に、次の3種類に分けられます。3種類全部を導入してもよいですし、1種類、または2種類を選んで導入することもできます。

正社員 勤務地、職種・職務、勤務時間がいずれも限定されていない正社員
多様な正社員 勤務地限定正社員 転勤するエリアが限定されている、転居を伴う転勤がない、転勤が一切ない正社員
職務限定正社員(職種・職務限定正社員) 職種・職務内容や仕事の範囲が他の業務と明確に区別され、限定されている正社員
勤務時間限定正社員(短時間正社員) 所定労働時間がフルタイムでない、あるいは残業が免除されている正社員

厚生労働省「勤務地などを限定した『多様な正社員』の円滑な導入・運用に向けて」等を参考に作成

「多様な正社員」は、従業員のワークライフバランス向上に効果があります。勤務地限定正社員は、子育てや介護のために転居ができない従業員に適しています。勤務時間限定正社員(短時間正社員)も、育児や介護の時間を必要とする従業員にはありがたい制度です。また、職務限定正社員(職種・職務限定正社員)は、特定の業務について高度で専門的なキャリアを積みたい従業員に向いています。

企業にとってもメリットがあります。まず、家庭の事情などで転勤やフルタイム勤務が難しく、退職せざるをえない従業員の離職を防ぎます。勤務地限定正社員は、地元に定着した働き方を希望する人材の採用・定着に寄与するでしょう。職務限定正社員(職種・職務限定正社員)は、高度人材の育成にもつながります。

有期雇用労働者の無期転換にも役立ちます。勤続5年を超えた有期雇用の労働者が希望した場合には、企業は無期雇用への転換に応じる義務があります。しかし、無期雇用へ転換する際、フルタイム勤務や残業、転勤を前提とした正社員として働くことが難しい労働者もいます。こうした場合には、「多様な正社員」の制度を取り入れることで、状況に応じた無期転換が可能になります。

また、「多様な正社員」は、勤務時間や勤務地に制約がある分、賃金水準が抑えられることがありますが、労働条件に応じた処遇として妥当性があり、労働者にとっては柔軟な働き方を選べる一方、企業にとっては人件費の抑制にもつながります。

2. 雇用管理上の注意点

勤務地・職務・勤務時間を限定した多様な正社員の働き方

「多様な正社員」を活用するためには、雇用管理の面で注意が欠かせません。もっとも大切なのが、労働者に限定の内容を明示し、合意を得ることです。特に、転勤や配置転換に関する労使トラブルが起きやすいので、勤務地や職種・職務に限定がある場合には、限定の内容について書面で具体的に明確に示し、合意を得ておきましょう。

職種の限定を巡っては、職種限定の合意に反する配転命令を違法とする判例が出ています。大阪高裁は今年1月、滋賀県社会福祉協議会で技術職として長年働いていた男性が同意なしに事務職へ配置転換させられた事案で、配転命令は違法として、社会福祉協議会に慰謝料80万円の支払いを命じました。社会福祉協議会は男性に、技術職に限定する書面での明示を行っていませんでした。しかし、技術職を18年も続けてきたことから、事実上、限定の合意があったと判断されました。

勤務地や職種・職務の限定が明確であっても、事業所を閉鎖したり、職種・職務そのものを廃止したりする場合に、「多様な正社員」をただちに解雇することはできません。解雇を回避するために、できる範囲で配置転換などを行う必要があります。

また、正社員と「多様な正社員」の間で、賃金や昇進・昇格について不公平がないようにすることも重要です。「多様な正社員」の勤務地、職種・職務、勤務時間が、正社員と比べてどの程度限定されているのかを考慮し、双方が納得できる処遇を実現すべきです。制度の設計・導入・運用や、どのように不公平のない処遇を図るかについては、労働者と十分に協議して決めてください。

「多様な正社員」の導入には就業規則の整備と周知が不可欠です。周知が不十分だと規定が無効になるリスクも。詳しくはこちらの記事をご覧ください。
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3. さいごに

厚生労働省は、「多様な正社員」の普及に向けて、ホームページで特集ページを設けています。導入の注意点などをまとめた資料のほか、モデル就業規則も掲載しています。

「多様な正社員」を導入するには、制度の設計、就業規則の整備、労働条件通知書の交付など、様々なプロセスが必要です。労働者とのコミュニケーションも十分に行わなければなりません。独力での導入が難しい場合には、ぜひ弊所にお声がけください。適切にアドバイスいたします。

ご不明点やお困りごとがございましたら、お気軽に社労士法人Aokiまでお問い合わせください。

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